ここでは,大学で習う線形代数についての基本を説明していきます.また,対象は特に問いません.数学が苦手な方でも理解しやすいような例を利用しているので安心して読み進めてください.なお,当サイトの線形代数の進め方について知りたい方は以下をクリック.
この回では,転置行列について説明していきます.
キーワード:転置行列、正則行列、対称行列、交代行列
転置とは簡単にいえば,ある行列の行と列を入れ替えることを指します.
すなわち,m行n列の行列Aに対し,その行と列を入れ替えることによってできるn行m列の行列Aを転置行列と呼びます.
行と列を入れ替えるといっても,初めは感覚的に分からない方もいるのではないのでしょうか?
具体例で見ていきましょう.
\[A = \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} \]
という行列があったとすると,その転置行列(\(^{t}A\)で表します)は,
\[^{t}A = \begin{pmatrix} 1 & 3 \\ 2 & 4 \end{pmatrix} \]
となります.詳しく見ていくと,まずAの第一行に注目します.これを縦にします.つまり,
\[\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix} \]
第二行目も同様に縦にします.
\[\begin{pmatrix} 3 \\ 4 \end{pmatrix} \]
最後にこれらを順に,左から並べるだけでOKです.
これはつまり,Aの各行を1行目から順に縦にし,それらを左から並べることによって転置行列ができるということです.
一般に転置行列とは,
\[A = \begin{pmatrix} a & b & c \\ d & e & f \end{pmatrix} \]
とするとき,Aの転置行列とは
\[ ^{t}A = \begin{pmatrix} a & d \\ b & e \\ c & f \end{pmatrix} \]
一度自分で適当な行列を使ってやってみるとすぐに理解できますよ.
転置行列に関して以下の規則が成り立ちます.
$$ 1. ^{t}(^{t}A) = A $$
$$ 2. ^{t}(A+B) = ^{t}A + ^{t}B $$
$$ 3. ^{t}(AB) = ^{t}B ^{t}A $$
$$ 4. ^{t}(kA) = k^{t}A (kは任意の定数)$$
$$ 5. (^{t}A)^{-1} = ^{t}(A^{-1}) (A, ^{t}Aともに正則)$$
1, 2, 4に関しては,直観的に成り立つことが分かると思います.いまいちピンと来ない方は具体的な問題を使って本当に成り立つかやってみましょう.
3に関して証明は可能ですが,少し複雑なのでここでは割愛します.
5に関しては,このような式変形が重要なのでこれを簡単に証明したいと思います.
5の証明
$$ (^{t}A)^{-1} = ^{t}(A^{-1}) より,$$
$$ ^{t}A^{t}(A^{-1}) = ^{t}(A^{-1})^{t}A = I・・・※が成立していれば良いので,3番目の規則より, $$
$$ ^{t}A^{t}(A^{-1}) = ^{t}(A^{-1}A) = ^{t}I = I $$
$$ ^{t}(A^{-1})^{t}A = ^{t}(AA^{-1}) = ^{t}I = I $$
$$ 以上より, (^{t}A)^{-1} = ^{t}(A^{-1}) は成立する.$$
なぜ※が成立する必要があるのか分かるでしょうか?
これを理解するために,5番目の規則の意味を言語化してみます.
$$ (^{t}A)^{-1} = ^{t}(A^{-1}) $$
この式は何を意味しているのでしょうか?これはつまり,Aの転置行列の逆行列(左辺)は,Aの逆行列の転置行列(右辺)となることを意味しています.
何だかややこしいので,普通の逆行列の定義を思い出してみましょう.
$$ A^{-1} = B $$
上の式の意味は,Aの逆行列はBになるということです.つまりこれは以下が成立することと同じです.
$$ AB = BA = I $$
これより, \(A = ^{t}A, B = ^{t}(A^{-1})\)と置き換えて考えると※が成立することが一目で分かります.
この理由が分からなかった方は,正則行列(こちら)について今一度復習してみましょう.
よって,※が成立する必要があります.後は,上の正則になるための条件が満たされているかチェックするだけとなります.
対称行列とは以下が成立する行列のことを指します.
$$ ^{t}A = A (Aはn次正方行列)$$
ある行列とその転置行列が一致するとき,元の行列を対称行列と呼びます.具体例で見てみましょう.
以下の行列は対称行列です.
\[A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 1 & 4 \\ 3 & 4 & 1 \end{pmatrix} I = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \]
実際それぞれの転置をとっても値は変わらないことが分かります.
対称行列の特徴は,対角成分(斜めの部分)を境に,鏡のように各要素が同じになっている点です.
例えば,Aの例では,(1, 2)成分と(2, 1)成分の値が,(1, 3)成分と(3, 1)成分の値が,(2, 3)成分と(3, 2)成分の値がそれぞれ等しくなっています.
交代行列とは以下が成立する行列のことを指します.
$$ ^{t}A = -A (Aはn次正方行列) $$
ある行列の転置行列が,元の行列の-1倍になる行列のことです.これもまた,具体例で見ていきましょう.
\[A = \begin{pmatrix} 0 & 2 & -3 \\ -2 & 0 & -4 \\ 3 & 4 & 0 \end{pmatrix} B = \begin{pmatrix} 0 & -\sqrt{2} & 5 \\ \sqrt{2} & 0 & 7 \\ -5 & -7 & 0 \end{pmatrix} \]
交代行列の特徴は, 対角成分(斜めの部分)の値が全て0になっている点とそこを境に向かい合う値がそれぞれ正と負になっている点です.
例えばBでは,\(\sqrt{2}と-\sqrt{2}\),5と-5,7と-7のようになっています.
1.転置行列とは,以下の行列のことである.
\[A = \begin{pmatrix} a & b & c \\ d & e & f \end{pmatrix} \]
とするとき,
\[ ^{t}A = \begin{pmatrix} a & d \\ b & e \\ c & f \end{pmatrix} \]
2.転置行列に関して以下の規則が成り立つ.
$$ - ^{t}(^{t}A) = A 転置行列の転置行列は元に戻る $$
$$ - ^{t}(A+B) = ^{t}A + ^{t}B 和の転置行列はそのまま分解できる $$
$$ - ^{t}(AB) = ^{t}B ^{t}A 積の転置行列は掛ける順番を逆にして分解できる$$
$$ - ^{t}(kA) = k^{t}A 転置行列の定数倍は定数を外に出せる $$
$$ - (^{t}A)^{-1} = ^{t}(A^{-1}) (A, ^{t}Aともに正則) 転置行列の逆行列は,もとの逆行列の転置行列となる $$
3.ある行列Aとその転置行列が等しいとき,Aを対称行列と呼ぶ.
4.ある行列Aの-1倍とAの転置行列が等しいとき,Aを交代行列と呼ぶ.
1. \((^{t}X)^{-1} = ^{t}(X^{-1})\)が成り立つことを証明しなさい.ただし,Xと\(^{t}X\)はともに正則であるとする.(ヒント:今回の記事にある)
解答はこちら → 練習問題解答
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