線形代数 余因子展開

線形代数

ここでは,大学で習う線形代数についての基本を説明していきます.また,対象は特に問いません.数学が苦手な方でも理解しやすいような例を利用しているので安心して読み進めてください.なお,当サイトの線形代数の進め方について知りたい方は以下をクリック.

線形代数の進め方

この回では,行列式を余因子展開によって解く方法について説明していきます.

キーワード:小行列、チルダ、小行列式、符号、余因子、余因子展開、サラスの方法、掃き出し法

行列式を解く方法

今まで紹介した行列式の解き方には以下がありました.

・2次・3次正方行列に対してサラスの方法を適用して解く.

・行列式の性質を利用して,掃き出し法のように解く.

今回説明する余因子展開は少し違う用語なども登場しますが,根底には上の方法と似た部分があるので気楽に読んでいきましょう.

用語の説明

余因子展開を説明する前に,用語の解説をします.

あるn次正方行列Aに対して,ある第i行と第j列を取り除いた行列を小行列と呼びます.このとき,次数はn-1になります.

例えば,以下の行列を考えてみます.

\[ A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \\ 7 & 8 & 9 \end{pmatrix} \]

Aの第2行と第1列を取り除き,他の位置は維持した小行列は以下です.

\[ \tilde{A_{21}} = \begin{pmatrix} 2 & 3 \\ 8 & 9 \end{pmatrix} \]

小行列は上の記号で表され,Aの上に付いている記号をチルダ(~)と呼び,右下は取り除いた行と列の番号です.

また小行列の行列式をそのままですが,小行列式と呼びます.

次に(i, j)余因子を以下の符号部分と小行列式を使って定義します.

\(D_{ij} = (-1)^{i+j}det(\tilde{A_{ij}})\)

iとjは同じく,取り除く第i行と第j列を表します.例えば,先ほどと同じく第2行と第1列を取り除くとしてその余因子は,

\(D_{21} = (-1)^{2+1}det(\tilde{A_{21}})\)

\[ det(\tilde{A_{21}}) = \begin{vmatrix} 2 & 3 \\ 8 & 9 \end{vmatrix} = 2・9-3・8 = 18 – 24 = -6 \]

なので,

\(D_{21} = (-1)^{2+1}det(\tilde{A_{21}}) = (-1)・(-6) = 6 \)

となります.以上が用語に関する解説です.これらを使って行列式を解いていくことになります.

余因子展開

余因子展開とは以下のことを指します.

Aをn次正方行列,aを行列Aの各要素とする.

1.\(det(A)\)の第i行に関する余因子展開とは以下が成立することである.

\(det(A) = a_{i1}D_{i1} + a_{i2}D_{i2} + ・・・ + a_{in}D_{in} \)

2.\(det(A)\)の第j列に関する余因子展開とは以下が成立することである.

\(det(A) = a_{1j}D_{1j} + a_{2j}D_{2j} + ・・・ + a_{nj}D_{nj}\)

具体例を使って見ていきましょう.また,先ほどと同じ行列を使います.

\[ A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \\ 7 & 8 & 9 \end{pmatrix} \]

まず,任意の行または列を一つ選びます.ここでは,第1行にしてみましょうか.なので上の定理の一番目を使います.

次に第一行を固定し,列を動かしながら(i, j)余因子を計算します.つまり以下を計算するということです.

\(det(A) = a_{11}D_{11} + a_{12}D_{12} + a_{13}D_{13}\)

先に各余因子を求めましょう.

\(D_{11} = (-1)^{1+1}det(\tilde{A_{11}}) \)

\[det(\tilde{A_{11}}) = \begin{vmatrix} 5 & 6 \\ 8 & 9 \end{vmatrix} = 5・9 – 6・8 = 45 – 48 = -3 \]

\(D_{11} = (-1)^{1+1}det(\tilde{A_{11}}) = 1・(-3) = -3 \)

\(D_{12} = (-1)^{1+2}det(\tilde{A_{12}}) \)

\[det(\tilde{A_{12}}) = \begin{vmatrix} 4 & 6 \\ 7 & 9 \end{vmatrix} = 4・9 – 6・7 = 36 – 42 = -6 \]

\(D_{12} = (-1)^{1+2}det(\tilde{A_{11}}) = (-1)・(-6) = 6 \)

\(D_{13} = (-1)^{1+3}det(\tilde{A_{13}}) \)

\[det(\tilde{A_{13}}) = \begin{vmatrix} 4 & 5 \\ 7 & 8 \end{vmatrix} = 4・8 – 5・7 = 32 – 35 = -3 \]

\(D_{13} = (-1)^{1+3}det(\tilde{A_{11}}) = 1・(-3) = -3 \)

よって余因子展開を行うと,

\(det(A) = a_{11}D_{11} + a_{12}D_{12} + a_{13}D_{13} = 1・(-3) + 2・6 + 3・(-3) = -3 + 12 – 9 = 0 \)

となり,行列式の値が求まりました. 余因子展開のすごいところは,どの行・列でも良いという点です.今第1行を考えましたが,試しに第1列を考えるつまり,第1列を固定して行を移動させながら符号を求めていくと,

\(D_{11} = -3, D_{21} = 6, D_{31} = -3\)

となるので,余因子展開は

\(det(A) = a_{11}D_{11} + a_{21}D_{21} + a_{31}D_{31} = 1・(-3) + 4・6 + 7・(-3) = -3 + 24 – 21 = 0 \)

となり値が先ほどと同じになりました.

以上が余因子展開による行列式の解き方です.しかし,仮に4次や5次に対してこれを適用すると考えると,4次だと3次の小行列が4つ,5次だと4次の小行列が5つ出てくるので,かなり計算はきついと思います.

なので,2次または3次に対して使うことにし,特に3次ではサラス・次数下げ・余因子展開の3パターンが使えるので, 自分で一度全てのパターンを行い計算しやすいものを使うべきだと思います.

まとめ

1. あるn次正方行列Aの第i行と第j列を取り除いた行列を小行列と呼び,\(\tilde{A_{ij}}\)で表す.また次数はn-1となる.

2.小行列の行列式を小行列式と呼ぶ.

3.(i, j)余因子を以下のように定義する.

\(D_{ij} = (-1)^{i+j}det(\tilde{A_{ij}})\)

4.余因子展開とは以下である.

・第i行に関する余因子展開

\(det(A) = a_{i1}D_{i1} + a_{i2}D_{i2} + ・・・ + a_{in}D_{in} \)

・第j列に関する余因子展開

\(det(A) = a_{1j}D_{1j} + a_{2j}D_{2j} + ・・・ + a_{nj}D_{nj}\)

練習問題

1.以下の行列式を余因子展開を使って解け.

\[ (1) \begin{vmatrix} -2 & 0 & 0 \\ 1 & 1 & 3 \\ 3 & 4 & 6 \end{vmatrix} \]

\[ (2) \begin{vmatrix} 2 & 1 & 8 \\ 3 & 7 & 5 \\ 4 & 4 & 3 \end{vmatrix} \]

解答はこちら → 練習問題解答

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