ここでは,大学で習う線形代数についての基本を説明していきます.また,対象は特に問いません.数学が苦手な方でも理解しやすいような例を利用しているので安心して読み進めてください.なお,当サイトの線形代数の進め方について知りたい方は以下をクリック.
この回では,連立一次方程式の解の種類を見極める方法について説明します.なお,行列の階数についての概念が分からない方は以下を先に読むことをおすすめします.
キーワード:未知数、自由度、階数、rank、同次形の連立一次方程式
この場合は,掃き出し法によって得られた連立一次方程式の解が一組に定まるときです.
例えば,以下の場合です.
\[ \left \{\begin{array}{} x_{1} + x_{2} +x_{3} &= 3 \\ 2x_{1} + x_{2} + 2x_{3} &= 5 \\ 4x_{1} + 2x_{2} + 6x_{3} &= 12 \end{array} \right . \]
拡大係数行列は,
\begin{pmatrix} 1 & 1 & 1 & 3 \\ 2 & 1 & 2 & 5 \\ 4 & 2 & 6 & 12 \end{pmatrix}
これを階段化すると以下になります(計算過程は自分でやってみよう).
\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{pmatrix}
確かに,この例ではただ一組の解\(x_{1} = 1, x_{2} = 1, x_{3} = 1\)を持つことが分かります.
このように,解が明確にただ一組になるパターンが一つ目の解の種類です.
この場合は, 掃き出し法によって得られた連立一次方程式の解が一組に定まらず,無限に考えられるときです.
そんなことあり得るのかと思われる方もいるかと思いますが,あるんです.
では例を使って見てみましょう.
\[ \left \{\begin{array}{} x_{1} + 3x_{2} + x_{3} -10x_{4} &= 6 \\ 3x_{1} + 6x_{2} + x_{3} -17x_{4} &= 13 \\ 2x_{1} + 4x_{2} + x_{3} -12x_{4} &= 8 \end{array} \right . \]
拡大係数行列は以下になります.
\begin{pmatrix} 1 & 3 & 1 & -10 & 6 \\ 3 & 6 & 1 & -17 & 13 \\ 2 & 4 & 1 & -12 & 8 \end{pmatrix}
これを階段化すると(計算は自分でやってみよう),
\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & 1 & -1 \\ 0 & 1 & 0 & -3 & 3 \\ 0 & 0 & 1 & -2 & -2 \end{pmatrix}
となります.しかし,この連立一次方程式は未知数が4つに対し,方程式が3つ(行が3つ)しかないので,このままでは解を求めることができません.
このようなときは,未知数のうち一つを”任意定数”である c と置くことで,解を持つようにできます.
つまり,\(x_{4} = c\)とおくと,上の拡大係数行列から以下の等式が出てきます.
\[ \left \{\begin{array}{} x_{1} + c &= -1 \\ x_{2} -3c &= 3 \\ x_{3} -2c &= -2 \end{array} \right . \]
よって上の等式を解くと,
解\(x_{1} = -1-c,x_{2} = 3+3c,x_{3} = -2+2c,x_{4} = c\)が求まりました.cは任意定数であることに注意しましょう.これに伴い,cの値が変わると\(x_{1}~x_{4}\)の値が変わり,結果的に解は無限個あると分かります.cと置くのは,\(x_{4}\)以外でも大丈夫ですが,計算が一番楽な\(x_{4}\)が最適だと思います.
このような解を持つ連立一次方程式は,基本未知数と方程式の数が等しくないとき発生します.
ここで解の自由度というものを定義します.一般に解の自由度とは,連立一次方程式の解を表すために必要な任意定数の個数のことを指します.そしてそれは以下で定義されます.
nは未知数の数,Aは係数行列とする.
・解の自由度
n – rankA
今回は,未知数4つに対し,係数行列の階数が3であったため,4 – 3 = 1で任意定数が1つ必要であったと分かります.この解の自由度を使い,置く必要のある任意定数の数を決めることができますが,正直使わなくても,等式を作ればどの任意定数が必要なのかは分かるので,暗記する必要はありません.
もちろん,使っても良いです.
このように,解が無限個になるパターンが二つ目の解の種類です.
この場合は, 掃き出し法によって得られた連立一次方程式の解が存在しないときです.
具体例で見ていきましょう.
\[ \left \{\begin{array}{} x_{1} + x_{2} -7x_{3} &= 5 \\ 2x_{1} -x_{2} + x_{3} &= -2 \\ 4x_{1} -x_{2} -3x_{3} &= -1 \end{array} \right . \]
拡大係数行列は以下になります.
\begin{pmatrix} 1 & 1 & -7 & 5 \\ 2 & -1 & 1 & -2 \\ 4 & -1 & -3 & -1 \end{pmatrix}
これを階段化すると,その途中で
\begin{pmatrix} 1 & 1 & -7 & 5 \\ 0 & 1 & -5 & 4 \\ 0 & 0 & 0 & -1 \end{pmatrix}
というような変形になります.この行列の第三行を等式に直すと,
\[ 0・x_{1} + 0・x_{2} + 0・x_{3} = 0 = -1 \]
となるため,左辺と右辺で矛盾します.よってこの連立方程式の解は存在しません.
このように,拡大係数行列を階段化している段階で,等式として矛盾するものが出た場合,解は存在しないと分かります.これが,三つ目の解の種類です.
実は,行列の階数の概念を利用することで,解の種類を判定することができます.
n個の未知数を持つ連立一次方程式を Ax = bとおくと,一般に以下が成り立ちます.
Aを係数行列,bを各方程式の右辺の列ベクトル,(A, b)を拡大係数行列とする.
・解がただ一組のとき
rank(A, b) = rankA = n
・解が無限個のとき
rank(A, b) = rankA < n
ここで復習ですが,連立一次方程式の解が存在する条件は,以下でした.
rank(A, b) = rankA
上の解の種類判定において,解がただ一組のときと無限個のときは,常にこの式が成立することが前提である点に注意しましょう.
では,解が存在しない場合はどうなるかというと,皆さんは既に分かっていると思いますが,以下になります.
・解が存在しないとき
rank(A, b) ≠ rankA
このように階数を使うことで,連立一次方程式の解の種類を判定することができます.
同次形の連立一次方程式とは,以下が成り立つ連立一次方程式のことです.
・同次形の連立一次方程式
Ax = 0
連立一次方程式 Ax = b において b = 0のとき,つまり各方程式の右辺の列ベクトルが零ベクトルのときを指します.
ここで x = 0とすると,A・0 = 0は常に成立するため,この x = 0は必ず同次形の連立一次方程式の解になり得ます.この x = 0を特別に自明な解と呼びます.
これより,同次形の連立一次方程式は常に解を持ちます.階数の条件式からも,rank(A, 0) = rankAが成り立つことは明白です.
しかし,解を持つときは,ただ一組の解を持つか無限個の解を持つかでした.実は,同次形の連立一次方程式においても階数を利用することで以下のように分類できます.
ある同次形の連立一次方程式の未知数の数をnとすると,
係数行列をAとする.
・解が自明な解のみ
rankA = n
・解が無限個
rankA < n
また,とくにm行n列の係数行列Aが m < nであると,それだけで,解が無限個持つと判定できます.なぜなら,最大でもAの階数はrankA = mであるので,m < nより,必ず無限個の解を持ちます.
このように,同次形の連立一次方程式では計算しなくても解の判定が出来る場合があります.
1.連立一次方程式の解の種類は以下である.
i) ただ一組の解
ii) 無限個の解
iii) 解が存在しない
2.解は階数によって分類できる.ただし,係数行列をA,各方程式の右辺の列ベクトルをb,拡大係数行列を(A, b),未知数の数をnとする.
i) 解がただ一組のとき:rank(A, b) = rankA = n
ii) 解が無限個のとき:rank(A, b) = rankA < n
iii) 解が存在しない:rank(A, b) ≠ rankA
3.同次形の連立一次方程式とは以下である.
Ax = 0
また,x = 0のときその解を自明な解と呼ぶ.
4. 同次形の連立一次方程式の解の種類は階数によって分類できる.ただし,係数行列をA,未知数の数をnとする.
i) 解が自明な解のときのみ:rankA = n
ii) 解が無限個のとき:rankA < n
またとくに,係数行列がm行n列であり,m < nのとき,必ず解が無限個となる.
1.以下の連立一次方程式の解を掃き出し法によって確かめよ.
\[ (1)\left \{\begin{array}{} x_{1} -x_{2} + x_{3} &= 2 \\ 2x_{1} + x_{2} -2x_{3} &= 3 \\ x_{1} + 5x_{2} -7x_{3} &= 1 \end{array} \right . \]
\[ (2)\left \{\begin{array}{} 3x_{1} +x_{2} + 3x_{3} -2x_{4} &= -2 \\ x_{1} + x_{2} + 3x_{3} + 4x_{4} &= -6 \\ x_{1} + 2x_{2} +4x_{3} + x_{4} &= -8 \end{array} \right . \]
2.以下の同次形の連立一次方程式の解の種類を判定せよ.
\[ (1) \left \{\begin{array}{} x_{1} + 2x_{2} -5x_{3} -x_{4}&= 0 \\ 2x_{1} + 3x_{2} -7x_{3} -4x_{4}&= 0 \\ x_{1} + x_{2} -2x_{3} + 3x_{4}&= 0 \\ -x_{1} -3x_{2} + 2x_{3} + 5x_{4}&= 0 \end{array} \right . \]
\[ (2) \left \{\begin{array}{} 12x_{1} + 5x_{2} +2x_{3} -9x_{4}&= 0 \\ 11x_{1} + 4x_{2} +3x_{3} -10x_{4}&= 0 \\ 3x_{1} + x_{2} +x_{3} -3x_{4}&= 0 \end{array} \right . \]
解答はこちら → 練習問題解答
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