線形代数 逆行列の求め方

線形代数

ここでは,大学で習う線形代数についての基本を説明していきます.また,対象は特に問いません.数学が苦手な方でも理解しやすいような例を利用しているので安心して読み進めてください.なお,当サイトの線形代数の進め方について知りたい方は以下をクリック.

線形代数の進め方

この回では,掃き出し法を利用して逆行列を求める方法について説明していきます.

キーワード:掃き出し法、正則行列、逆行列、正方行列、単位行列

本題に入る前に

逆行列を求めるには,掃き出し法について理解している必要があるので,掃き出し法についてよく分からない方は以下を先に読むことをおすすめします.

掃き出し法

また,正則や逆行列についての基本を理解していない方は以下を先に読むことをおすすめします.

正則行列

定義と計算の流れ

掃き出し法によって逆行列を求めるさいには,前提とする条件があります.それは逆行列を求めようとしている行列がn次正方行列であることです.

これは,逆行列が存在するということは,元の行列は正則である必要があることから分かります.正則になり得る行列はn次正方行列だからです.

これを前提として,実は以下の規則を定義することができます.

ある正則行列Aに対し,(A, I)に行基本変形を繰り返すと必ず\((I, A^{-1})\)になる.逆に,これが成り立つならば,Aは必ず正則行列となる.

この定義をより理解するには,基本行列と呼ばれる概念を知る必要がありますが,説明が少し長くなるのでまた別の機会で説明できたらと思います.

ここでは,この定義を直観的に理解できるように説明します.

まず正則行列Aを用意しましょう.(本来はこの時点でAが正則かどうかは分からない状態です.行列式を利用すれば正則であるかどうか瞬時に分かりますが,ここでは行列式の知識が無いものとします.)

\[A = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 2 & -1 \\ 3 & -1 & 1 \end{pmatrix} \]

(A, I)とは,n次正方行列Aに単位行列を連結させたものなので,Aが3次正方行列より以下になります.

\[(A, I) = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 2 & -1 & 0 & 1 & 0 \\ 3 & -1 & 1 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \]

そしてこれに掃き出し法(行基本変形を繰り返す)を適用します.

\[\begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 2 & -1 & 0 & 1 & 0 \\ 3 & -1 & 1 & 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} → \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 2 & -1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & -1 & -2 & -3 & 0 & 1 \end{pmatrix} → \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & -\frac{1}{2} & 0 & \frac{1}{2} & 0 \\ 0 & -1 & -2 & -3 & 0 & 1 \end{pmatrix} \]

\[→ \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & -\frac{1}{2} & 0 & \frac{1}{2} & 0 \\ 0 & 0 & -\frac{5}{2} & -3 & \frac{1}{2} & 1 \end{pmatrix} → \begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & -\frac{1}{2} & 0 & \frac{1}{2} & 0 \\ 0 & 0 & 1 & \frac{6}{5} & -\frac{1}{5} & -\frac{2}{5} \end{pmatrix} → \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & -\frac{1}{5} & \frac{1}{5} & \frac{2}{5} \\ 0 & 1 & 0 & \frac{3}{5} & \frac{2}{5} & -\frac{1}{5} \\ 0 & 0 & 1 & \frac{6}{5} & -\frac{1}{5} & -\frac{2}{5} \end{pmatrix} \]

上の最後の行列を取り出すと以下になっています.

\[(I, A^{-1}) = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 & -\frac{1}{5} & \frac{1}{5} & \frac{2}{5} \\ 0 & 1 & 0 & \frac{3}{5} & \frac{2}{5} & -\frac{1}{5} \\ 0 & 0 & 1 & \frac{6}{5} & -\frac{1}{5} & -\frac{2}{5} \end{pmatrix} \]

上記より,Aの逆行列は(見やすくするため,分数は行列の外に出しています)

\[A^{-1} = \frac{1}{5}\begin{pmatrix} -1 & 1 & 2 \\ 3 & 2 & -1 \\ 6 & -1 & -2 \end{pmatrix} \]

このように,正則行列Aに対し(A, I)を掃き出すと,\((I, A^{-1})\)となり,逆行列が求まります.

今回は話の都合上,既に正則行列であると分かった状態から計算しますが,仮に分かっていなくとも,定義から先ほどのような結果になればAは正則であるとも分かります.

以上が計算の流れです.

逆行列を求めるアルゴリズム

ここでは,先ほどの定義からの計算の流れをまとめます.

逆行列を求めるアルゴリズムは以下になります.

1.ある行列A(n次正方行列)を準備する.

2.(A, I)を準備する.ただしIは単位行列であり,Aと同じ型である.

3.(A, I)を一つの行列と見て,掃き出し法を適用する.これより,結果が(I, B)になった場合は4へ進む(Bは掃き出し法によって出来た任意のn次正方行列).そうでない場合,つまり(I, B)のIが単位行列でないとき,Aは正則行列でないため,逆行列は存在しない.

4.\(B = A^{-1}\)なので,逆行列\(A^{-1}\)が求まる.

上のアルゴリズムを元に自分で逆行列を求めてみましょう.

まとめ

1.逆行列を求める背景には以下の定義がある.

ある正則行列Aに対し,(A, I)に行基本変形を繰り返すと必ず\((I, A^{-1})\)になる.逆に,これが成り立つならば,Aは必ず正則行列となる.

2.逆行列を求めるアルゴリズムは以下である.

i) ある行列A(n次正方行列)を準備する.

ii) (A, I)を準備する.ただしIは単位行列であり,Aと同じ型である.

iii) (A, I)を一つの行列と見て,掃き出し法を適用する.これより,結果が(I, B)になった場合は4へ進む(Bは掃き出し法によって出来た任意のn次正方行列).そうでない場合,つまり(I, B)のIが単位行列でないとき,Aは正則行列でないため,逆行列は存在しない.

iv) \(B = A^{-1}\)なので,逆行列\(A^{-1}\)が求まる.

練習問題

1.以下の行列の逆行列を求めよ.もし逆行列が存在しない場合,その根拠を示せ.

\[(1)\begin{pmatrix} 1 & 3 \\ 2 & 4 \end{pmatrix} \]

\[(2)\begin{pmatrix} 2 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \\ 2 & 0 & -1 \end{pmatrix} \]

\[(3)\begin{pmatrix} 2 & 3 & 1 \\ 5 & 3 & 2 \\ 0 & 8 & 1 \end{pmatrix} \]

解答はこちら → 練習問題解答

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