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線形代数 4次以上の行列式

ここでは,大学で習う線形代数についての基本を説明していきます.また,対象は特に問いません.数学が苦手な方でも理解しやすいような例を利用しているので安心して読み進めてください.なお,当サイトの線形代数の進め方について知りたい方は以下をクリック.

線形代数の進め方

この回では,4次以上の行列式の一般的な解き方について説明していきます.

キーワード:4次以上、行列式、掃き出し法、行基本変形、ヴァンデルモンドの行列式、数学的帰納法

行列式の性質

行列式の計算方法を説明する前に,行列式を計算するときに利用する性質を理解しましょう.

なお,行列式の計算過程に利用する変形は,連立一次方程式を解く際に利用する掃き出し法の変形と似ています.よって掃き出し法についてのアルゴリズムを理解できていないよという方は先に以下を読むことをおすすめします.

掃き出し法

では,一つ一つ説明していきたいと思います.

1.行列式の(1, 1)成分が任意の値であり,(1, 1)成分以外の第1行または第1列の要素が全て0のとき,その(1, 1)成分を外に出し,第1行・第1列を削除できる.

以下のような例のときです.

\[ \begin{vmatrix} a_{11} & 0 & 0 & 0 \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \textbf{or}  \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ 0 & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ 0 & a_{32} & a_{33} &a_{34} \\ 0 & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

上のように(1, 1)成分が任意の値で,(1, 1)成分以外の第一列または第一行が全て0のとき,以下のように変形できます.

\[ a_{11} \begin{vmatrix} a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

実際行列式を解く際には,この形に式変形することを目指して,例えば5次正方行列から4次,3次などに次数を下げて行列式を計算しやすくしていきます.

2.ある行を定数倍すると,その行列式全体を定数倍できる.

以下のような例のときです.ただしcを任意の定数とします.

\[ \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ ca_{21} & ca_{22} & ca_{23} & ca_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

上のように,ある行(第二行)が全てc倍つまり,cでくくることができるとき,以下のように変形できます.

\[ c\begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

3.ある行の要素がそれぞれ何らかの和で表されるとき,行列式を分割できる.

以下のような例のときです.

\[ \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ b_{31} + c_{31} & b_{32} + c_{32} & b_{33} + c_{33} & b_{34} + c_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

上の例では,ある行(第三行)がそれぞれ任意の値の和で表現できるため,以下のように変形できます.

\[ \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ b_{31} & b_{32} & b_{33} & b_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} + \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ c_{31} & c_{32} & c_{33} & c_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

このとき,第三行以外は元の行列式と同じであることに注意しましょう.

4.ある二つの行を入れ替えると,行列式全体が-1倍になる.

以下のような例のときです.

\[ \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

上の行列式の第一行と第四行を入れ替えると,以下になります.

\[ -\begin{vmatrix} a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \end{vmatrix} \]

このように行を入れ替えると全体が-1倍されます.この変形は掃き出し法の行基本変形にもありましたが,行列式は-1倍されるということが違いです.

5.ある行を定数倍したものと他の行との和をとっても,行列式の値は変わらない.

以下のような例のときです.

\[ \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} = \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ ca_{11} + a_{21} & ca_{12} + a_{22} & ca_{13} + a_{23} & ca_{14} + a_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

このようにある行(第一行)を定数倍(c倍)したものと他の行(第二行)との和をとっても元の行列式と変わりません.これもまた,行基本変形に同じ変形がありましたが,ここに関してはそれと同じです.

6.ある行が他の行の定数倍で表現できるとき,その行列式の値は0.

以下のような例のときです.

\[ \begin{vmatrix} ca_{21} & ca_{22} & ca_{23} & ca_{24} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} & a_{34} \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

上のように,ある行(第一行)が他の行(第二行)定数倍(c倍)のとき,この行列式は計算しなくとも0となります.

7.ある行が零ベクトルのとき,その行列式の値は0.

以下のような例のときです.

\[ \begin{vmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} & a_{14} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} & a_{24} \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ a_{41} & a_{42} & a_{43} & a_{44} \end{vmatrix} \]

上のように,ある行(第三行)が零ベクトルであると,その行列式の値は0になります.

以上が行列式の性質についての説明になります.この他にも性質はありますが,基本的に十分だと思います.

また,全ての性質において主に行列式の行について説明しましたが,行を列と読み替えても性質が成り立つということを覚えておきましょう(これ重要).

計算方法

行列式の性質を利用して解いていきます.基本的には,掃き出し法の階段化と似ているので,そちらを理解している方は難しく感じないと思います.

以下の例を使いましょう.

\[ \begin{vmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 \\ 1 & 2 & 1 & 2 \\ 1 & 1 & 3 & 1 \\ 1 & 2 & 1 & 4 \end{vmatrix} \]

基本の流れは行列式の性質の1番目のような形に持っていき,4次から3次へと次数を落とすことを目標とします.よって,5番目の性質を利用して(1, 1)成分以外の第一列を0にします.

そのために,第一行を-1倍したものと残りの行との和をとると良さそうです.このとき,第一行には仮定的に-1倍を掛けるということに注意しましょう(実際に第一行が-1倍されるわけでない).

\[ \begin{vmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 \\ 1 & 2 & 1 & 2 \\ 1 & 1 & 3 & 1 \\ 1 & 2 & 1 & 4 \end{vmatrix} = \begin{vmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 3 & 1 \\ 1 & 2 & 1 & 4 \end{vmatrix} = \begin{vmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 2 & 0 \\ 1 & 2 & 1 & 4 \end{vmatrix} = \begin{vmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 2 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 3 \end{vmatrix} \]

これで(1, 1)成分の1を外に出して,第一行と第一列を削除できます.しかし,1は掛けても変わらないので単純に第一行と第一列を削除するだけでOkです.

\[ \begin{vmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 2 & 0 \\ 1 & 0 & 3 \end{vmatrix} \]

これで次数が4次から3次へとなりました.ここで考えてほしいのが,この後の計算方法です.今回のタイトルには4次以上の行列式とありますが,3次に対してもこの計算方法は適用できます.しかし,サラスの方法(分からない方はこちら → サラスの方法)を使って解くこともできます.つまり行列式の計算方法として以下の2通りが考えられます.

1.3次まで行列式の次数を下げて,サラスの方法を適用する.

2.2次まで下げて,サラスの方法を適用する.

正直いうと,どちらの方法をとっても良いと思います.ただ,計算がとても得意で次数を下げる過程にかかる時間よりもサラスの方法の計算の方が早いという方は1を,そうでない方は2をおすすめします.

というのも,問題によっては3次のサラスの方法で解くのが面倒に感じる場合が個人的にあるからです.

よって今回は2を行いましょう.

つまり,第一列を同じように0にするために,第一行を-1倍したものと他の行との和をとります.今,第二行は既に0なので,第三行だけでOKです.

\[ \begin{vmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 2 & 0 \\ 1 & 0 & 3 \end{vmatrix} = \begin{vmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 2 & 0 \\ 0 & 0 & 2 \end{vmatrix} \]

これで次数を2次に下げることができます.

\[ \begin{vmatrix} 2 & 0 \\ 0 & 2 \end{vmatrix} \]

これにサラスの方法を適用すると,行列式の値は

\[ \begin{vmatrix} 2 & 0 \\ 0 & 2 \end{vmatrix} = 2・2 – 0・0 = 4\]

となりました.以上が行列式の解き方になります.

行列式の計算をしてきましたが,それに利用した性質は1番目と5番目だけだったことに気づいたでしょうか?

というか,ほとんどの場合1と5番目を利用すれば解けます.しかし,問題によっては他の性質を利用すると,より早く解ける場合があるのでその辺りは試行錯誤してみましょう.

まとめ

1.行列式にはいくつかの性質があるが,重要な性質は以下である.

・行列式の(1, 1)成分が任意の値であり,(1, 1)成分以外の第1行または第1列の要素が全て0のとき,その(1, 1)成分を外に出し,第1行・第1列を削除できる.

・ある行または列を定数倍したものと他の行との和をとっても,行列式の値は変わらない.

練習問題

1.以下の行列式の値を求めよ.

\[ (1) \begin{vmatrix} 1 & 9 & 4 & 7 \\ 3 & 7 & 0 & 1 \\ 0 & 3 & 0 & 0 \\ 2 & 5 & 9 & 5 \end{vmatrix} \]

\[ (2) \begin{vmatrix} 1 & 1 & 1 & 1 \\ a & b & c & d \\ a^{2} & b^{2} & c^{2} & d^{2} \\ a^{3} & b^{3} & c^{3} & d^{3} \end{vmatrix} \textbf{(ヴァンデルモンドの行列式)}\]

ヒント:行だけでなく,列にも注目してみよう.

2.全てのIについて以下が成立することを数学的帰納法によって証明せよ.証明するさいは,2次単位行列から考えよ.

\(det(I) = 1\)・・・*

なお数学的帰納法とは,以下の流れに基づく.

命題*を数学的帰納法によって証明するには,全ての次数を自然数nとおくと,

i)初期条件(この場合は2次の単位行列,n=2)のとき

*が成立することを証明.

ii)任意の条件のとき(この場合3次以上の単位行列,n=k)のとき

n=Kにおいて*が成立すると仮定し,n=k+1において*が成立することを証明.これで初めてn=kが成立する.

i), ii)より,全てのnにおいて*が成立する.

解答はこちら → 練習問題解答

tomo

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