ここでは,大学で習う線形代数についての基本を説明していきます.また,対象は特に問いません.数学が苦手な方でも理解しやすいような例を利用しているので安心して読み進めてください.なお,当サイトの線形代数の進め方について知りたい方は以下をクリック.
この回では,行列式の本質的な定義について説明していきます.
キーワード:順列、階乗、転倒数、偶順列、奇順列、行列式
行列式の定義の前に順列という概念について少し説明します.
高校数学Aを習った方は場合の数という分野でやったあれです.実は,行列式の定義の根底には順列の考え方が使われています.
順列とは以下の定義でした.
順列とは異なるn個のものの中から異なるr個を取り出して1列に並べられたもののこと.そして,その並べ方の数は以下で表される.
\(_{n}P_{r} = n(n-1)(n-2)・・・(n-r+1)\)
特に n = r のときは以下で表される.
\(_{n}P_{n} = n! = n(n-1)(n-2)・・・3・2・1\) (ただし,0! = 1,\(_{n}P_{0} = 1\))
上のPはpermutation(順列)の頭文字で,!マークは階乗を表す記号です.
例えば,A, B, C, Dの4人から2人を選んで1列に並べるときは,
\(_{4}P_{2} = 4・3 = 12通り\)
1, 2, 3の数字を全て並べるとき(階乗)は,
\(3! = 3・2・1 = 6通り\)
といった感じです.行列式で利用するのは階乗の考え方であるので,イメージとしては,n個の数字を1列に並べるときその並べ方の総数はいくつかということを聞かれているのだと解釈しましょう.
先ほどの階乗の例では,1, 2, 3を1列に並べるとすると6通りでしたが,それを書き出すと以下のパターンになります.
(1, 2, 3),(1, 3, 2),(2, 1, 3),(2, 3, 1),(3, 1, 2),(3, 2, 1)
ここで,転倒数と呼ばれる概念を導入します.一般に転倒数とは以下で表されます.
ある順列を(\(i_{1}, i_{2}, ・・・i_{n}\))とするとき,その順列を左から順に見て,今注目している値をαとすると,αより後ろにある値でかつαより小さい値の個数の合計
具体例で見ていきましょう.例えば,先ほどの1, 2, 3の例でいけば転倒数はそれぞれ以下になります.
(1, 2, 3)の場合は,左から順に見ていくと,1よりあとにあってそれより小さい数はないので個数は0個.次に2よりあとにあってそれより小さい数はないので0個.3は最後なのでこれ以上は調べられない.よって転倒数は0+0=0となります.
もう一ついってみましょう.
(1, 3, 2) の場合は,左から順に見ていくと,1よりあとにあってそれより小さい数はないので個数は0個.次に3よりあとにあってそれより小さい数は2があるので1個.2は最後なのでこれ以上は調べられない.よって転倒数は0+1=1となります.
このように全ての並べ方に対し転倒数を調べると以下になります.
(1, 2, 3):0+0=0,(1, 3, 2):0+1=1,(2, 1, 3):1+0=1,
(2, 3, 1):1+1=2,(3, 1, 2):2+0=2,(3, 2, 1):2+1=3
そしてこの転倒数が偶数のときの順列を偶順列,奇数のときの順列を奇順列と呼び,以下の順列に対する符号を定義します.
\(ε(i_{1},i_{2},・・・i_{n})\)をある順列の符号とする.
\[ ε(i_{1},i_{2},・・・i_{n}) = \left \{\begin{array}{} 1\textbf{(偶順列のとき)} \\ -1\textbf{(奇順列のとき)}\end{array} \right . \]
先ほどの転倒数の結果から各符号を求めると,
ε(1, 2, 3)=1,ε(1, 3, 2)=-1,ε(2, 1, 3)=-1, ε(2, 3, 1)=1,ε(3, 1, 2)=1,ε(3, 2, 1)=-1
この符号に関して,以下の性質が成り立ちます.
\(ε(i_{1},i_{2},・・・i_{n})\)をある順列の符号とすると,ある2つの任意の値\(i_{k}, i_{j}\)を取り出してそれらの位置を入れ替えると必ず符号が反転する.
例えば,ε(1, 2, 3)=1でしたが,この1と2を入れ替えると ε(2, 1, 3)=-1となります.あるいは,ε(1, 3, 2)=-1でしたが,この3と2を入れ替えると ε(1, 2, 3)=1のようにどれか2つを入れ替えると符号が反転することが分かります.
転倒数についての説明は以上です.行列式の定義には,この順列の符号の考え方が重要なのでしっかり理解しましょう.
行列式は転倒数の考え方を利用して以下のように定義されます.
あるn次正方行列をA,Aの各要素をa, \(ε(i_{1},i_{2},・・・i_{n})\)を順列の符号とする.
\(det(A) = \displaystyle \sum_{(i_{1},i_{2},・・・i_{n})}^{} ε(i_{1},i_{2},・・・i_{n})a_{1i_{1}}a_{2i_{2}}・・・a_{ni_{n}}\)
行列式は上のようにdet(A)と表現する場合や|A|と表現する場合があります.detはdeterminantつまり行列式の略です.
行列式の定義をもう少し説明すると,順列\((i_{1},i_{2},・・・i_{n})\)の全ての並び方に対して,その各符号と上の定義に当てはまる行列Aの各要素の積を取ることで実現できます.
具体例で見ていきましょう.Aが以下のような2次正方行列の場合を考えてみます.ここで,行列式を定義するAはn次正方行列である点に注意しましょう.
\[ A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} \\ a_{21} & a_{22} \end{pmatrix} \]
まず2次正方行列ということは順列(1, 2)を考えるということなので,この順列は以下の並び方が考えられます.
(1, 2),(2, 1)
次に転倒数を調べます.全ての転倒数を調べても良いのですが,先ほど,ある順列の2つの要素を入れ替えると,その符号が変わると説明したのでそれを利用しましょう.
(1, 2)の転倒数は0なので,その符号はε(1, 2)=1,よってここから,ε(2, 1)=-1と分かります.
2次正方行列は2つしか並び方がないので, 転倒数を求めても良いですが,3次以上になってくると,この考え方が重要であると分かります.
各符号が分かったので行列式の定義をもとに計算すると,
ε(1, 2)=1,ε(2, 1)=-1より,
\(det(A) = ε(1, 2)a_{11}a_{22} + ε(2, 1)a_{12}a_{21} = a_{11}a_{22} – a_{12}a_{21} \)
以上が行列式の定義となります.
でも正直,Aが4次以上になるとこのような計算は面倒ですよね。実際に行列式を計算するときは,この定義を使って計算することはおそらく少ないと思います。
実は,行列式にはもっと楽な計算方法があり,それは別の回で説明する予定ですが,行列式の裏のロジックにはこのような考え方があるのだということを理解しておきましょう.
1.行列式には順列が使われている.
2.転倒数とは,ある順列を左から順に見たとき,今注目している値よりも後ろにありかつ,その値よりも小さい値の個数の合計である.
3.順列の符号は,転倒数が偶数のとき1,奇数のとき-1となる.
3.行列式の定義は以下である.
あるn次正方行列をA,Aの各要素をa, \(ε(i_{1},i_{2},・・・i_{n})\)を順列の符号とする.
\(det(A) = \displaystyle \sum_{(i_{1},i_{2},・・・i_{n})}^{} ε(i_{1},i_{2},・・・i_{n})a_{1i_{1}}a_{2i_{2}}・・・a_{ni_{n}}\)
1.2次・3次正方行列の行列式を求める方法として,サラスの方法(違う回で詳しく紹介)がある.これは,行列式の定義を利用することで証明することができる.今回,2次の場合は説明していた(行列式の定義を参照).これをもとに3次正方行列について行列式の定義から行列式を計算し3次の場合のサラスの方法を証明せよ.なお3次のサラスの方法は以下であり,3次正方行列Aは以下を用いよ.
\[ A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} \\ a_{21} & a_{22} & a_{23} \\ a_{31} & a_{32} & a_{33} \end{pmatrix} \]
\(det(A) = a_{11}a_{22}a_{33} + a_{13}a_{21}a_{32} + a_{12}a_{23}a_{31} -( a_{13}a_{22}a_{31} + a_{12}a_{21}a_{33} + a_{11}a_{23}a_{32}) \)
解答はこちら → 練習問題解答
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