ここでは,大学で習う線形代数についての基本を説明していきます.また,対象は特に問いません.数学が苦手な方でも理解しやすいような例を利用しているので安心して読み進めてください.なお,当サイトの線形代数の進め方について知りたい方は以下をクリック.
この回では,行列式と正則の関係性について説明していきます.
キーワード:行列式、正則、逆行列、単位行列
ある行列Aが正則であるかどうか調べるには,Aの逆行列を求める過程(分からない方はこちら → 逆行列の求め方)つまり,行列\((A, I)\)に対して掃き出し法を行い,これが\((I, A^{-1})\)となれば,Aは正則であると分かります.
しかし,Aが2次・3次正方行列などのときに,毎回掃き出し法を使うのは面倒ですし,単に正則であるかどうかを知りたいという場合もあります.
ここで使えるのが実は行列式です.Aの行列式の値を調べることで,正則かそうでないかを判断できます.
一般に以下が成り立ちます.
Aはn次正方行列であるとする.Aが正則であるための必要十分条件は以下が成り立つときである.
\(det(A) ≠ 0\)
つまり,行列式の値が0でないとき,その行列は正則だといっています.逆に0であれば,正則ではないということです.
この証明は簡単です.
先ほどAの逆行列を求めるには, 行列\((A, I)\)に対して掃き出し法を行い,これが\((I, A^{-1})\)となれば良いと述べました.つまり,正則であればAを階段化すると単位行列Iになるということです.
ここで,以下が成り立ちます.
\(det(I) = 1\)
これは数学的帰納法などを使えば,簡単に証明できます.この回の練習問題に出しています(4次以上の行列式).
ここから,単位行列の行列式は1になるので,これは当然0と異なります.よって,正則行列は階段化によって必ずIになり,その行列式の値は0でないのでAは正則であると分かります.
このように行列式の値が分かれば,その行列が正則かどうか判断できます.
ある行列Aが正則のとき,逆行列が存在するわけですが,これと行列式とを絡めた以下の式が成り立つことが分かっています.
Aを正則行列とする.
\(det(A^{-1}) = \frac{1}{det(A)}\)
つまり,Aの逆行列の行列式は,Aの行列式の逆数によって求められるということを意味しています.
これを証明してみましょう.
Aが正則であるということは,以下が成り立ちましたね.
\(AA^{-1} = A^{-1}A = I\)
よって\(AA^{-1} = I\)より,この式の両辺の行列式をとります.つまり,
\(det(AA^{-1}) = det(I)\)
右辺は1になりますね.つまり以下になります.
\(det(AA^{-1}) = 1 \)
ここで少し考えてみて欲しいのですが,目標の式は以下でしたね.
\(det(A^{-1}) = \frac{1}{det(A)}\)
これが成立するには, \(det(AA^{-1}) = 1 \)が次にどのような式変形になれば良いでしょうか?
ここで逆算してみましょう. \(det(A^{-1}) = \frac{1}{det(A)}\)の両辺に\(det(A)\)を掛けると(Aは正則なので行列式は0にならない)
\(det(A)det(A^{-1}) = 1 \)
となりました.ということは,以下が必然的に成り立つ必要があるのではないでしょうか?
\(det(AA^{-1}) = det(A)det(A^{-1}) \)
実は,行列式の積に関して以下が成り立ちます.
A, Bはn次正方行列とする.
\(det(AB) = det(A)det(B)\)
つまり,行列式の積はそれぞれの行列式の積に分割できます.ここで気が付いて欲しいのが,今の過程では,この定理を知らない状態で導くことができたということです.
式変形系の証明は,今回の場合のように,定理を知らなかったとしても逆算から分かったりします.この考え方は重要なのであえて後に定理を説明しました.
数学的には正しい証明ではないのですが,推測で式を導くことの大切さも知っておくと良いです.
話が少しそれました.よって, \(det(A)det(A^{-1}) = 1\)が成り立つことが分かったので,両辺を\(det(A)\)で割ることによって,
\(det(A^{-1}) = \frac{1}{det(A)}\) となり,証明完了です.
1.あるn次正方行列Aが正則であるための必要十分条件は以下である.
\(det(A) ≠ 0\)
2.行列式と逆行列には以下の関係性がある.ただし,A, Bはn次正方行列とする.
\(det(AB) = det(A)det(B)\)
1.以下の行列が正則であるかどうか調べよ.
\[ (1)\begin{pmatrix} 2 & 10 & 44 \\ 1 & 6 & 26 \\ 1 & 8 & 35 \end{pmatrix} \]
\[(2)\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \\ 7 & 8 & 9 \end{pmatrix} \]
解答はこちら → 練習問題解答
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